macOS版 Office 365における大量フォント読み込み問題とMicrosoftの対応


問題の概要と現象

macOS版のMicrosoft Office(WordやExcel、PowerPointなど)では、システムにインストールされたフォントの数が極端に多い場合に アプリがフリーズしたり動作が極端に遅くなる問題が報告されています。具体的には、Officeアプリ起動時やフォントメニュー表示時に大量のフォントを読み込もうとして処理が重くなり、最悪の場合アプリケーションが応答しなくなることがあります。また、Officeアプリ上部に「一部のフォントを読み込むことができませんでした。一部のフォントがない可能性があります」(”We were unable to load all your fonts. Some fonts may be missing.”)という黄色い警告メッセージが表示され、フォントピッカー(フォント一覧)に特定のフォントが表示されないといった症状も確認されています。これはインストールされているフォントが多すぎて、Officeアプリがすべてのフォントを読み込めないことが原因です。結果として、テキストが別のフォントに置き換わったり(フォント代替)、特定の標準フォント(例:Times New Roman)が見当たらないといった問題も発生します。

Microsoftによる対策:フォント読み込み数の制限導入

この問題に対処するために、Microsoftは macOS版Officeで読み込むフォント数に上限を設ける変更を過去数年(おおよそ2022年~2023年頃)に実施しました。具体的な公表時期は明示されていませんが、ユーザー報告や技術コミュニティでの言及から判断すると、Officeアプリが表示・使用可能なフォントの数を約1,000書体程度に制限する仕様が導入されています。実際、Microsoftのサポート記事でも「システムに多数のフォントをインストールしている場合、Officeアプリではすべてのフォントを読み込めない場合がある」と注意喚起されており、Monotype社(フォントベンダー)のヘルプセンターも「PowerPoint(macOS版)はユーザー環境に1,000を超えるフォントがあると正常に動作しない」と述べ、フォント数を1,000以下に減らすことを推奨しています。この変更によって、Officeアプリが自動的に読み込むフォントの数に上限が設けられ、上限を超えた分のフォントは読み込まずに無視するようになりました。その結果、以前のように数千ものフォントをロードしようとして起きていたフリーズや極端なパフォーマンス低下が軽減されています。

フォント数の閾値は正式にはアナウンスされていませんが、ユーザーからの報告ではおおよそ「1,000フォント前後」が上限とされています。Officeアプリはまずシステム標準フォントやOffice同梱のフォントをすべて表示し、残りのサードパーティー(ユーザー追加)フォントについてはアルファベット順に約1,000書体までリストアップした時点で打ち切られ、それ以降のフォントはフォントメニューに表示されなくなります。上限を超えた場合には前述のように警告メッセージが表示され、「それ以上のフォントは読み込まれていない」ことがユーザーに通知される仕組みです。こうした制限により、Officeアプリがシステム内の膨大なフォントをすべて読み込もうとして処理が飽和するのを防ぎ、安定性と動作速度を確保しています。

対象アプリケーションと変更の告知状況

このフォント読み込み数制限は macOS版の主要なOfficeアプリすべて(Word、Excel、PowerPoint、Outlook、OneNote など)に該当します。実際、Microsoftサポートの情報ではOffice 2016 for Mac以降の各アプリでフォント問題(文字化けやフォント欠落)が確認されており、これらは共通のフォントレンダリングエンジンに起因する現象です。Office 365(Microsoft 365)のMac向けデスクトップ版でも継続的にアップデートの中でこの問題に対処しており、2022~2023年頃のバージョンで事実上この制限が有効になったと考えられます。ただし、Microsoftから公式発表(例えばブログ記事やリリースノートでの明示的な告知)は確認できませんでした。代わりに、Microsoft Tech Communityやサポートコミュニティでの回答、およびサポート技術情報を通じてこの変更が示唆されています。たとえば、MicrosoftのQ\&Aフォーラムでは「フォント数を1,000より少し下回る程度に減らしたところ問題が解消した」との報告があり、これは最新のOffice for Macでも同様の制限が存在することを示唆しています(※Microsoftコミュニティでの発言)。また前述のMonotype社の情報も、Microsoftから提供された知見に基づきこの問題と対策を説明しています。つまり、フォント読み込み数制限の導入自体は事実上行われていますが、Microsoftはそれを大々的に宣伝するのではなく、「既知の制限事項」としてサポート情報に記載する形で対処していると言えます。実際、2018年時点のMicrosoftサポート記事に既に「大量のフォントをインストールしている場合に一部フォントが読み込めない」現象とその回避策(優先フォントの設定)が掲載されており、これが現在まで踏襲されている形です。

技術的な詳細とユーザー側での対処方法

フォント数制限の具体的な値(閾値)は約1,000書体と推定されていますが、これは固定の数というよりも内部的に決められた上限であり、ユーザーがOfficeの設定で変更することはできません。上限を超えたフォントは前述のように自動的に無視されます。そのため、もし必要なフォントがOfficeアプリに表示されなくなった場合、基本的な対処はインストールフォント数を減らすことになります。Microsoftおよび専門家は「不要なフォントを無効化・削除し、インストール済みフォントを1,000以下に絞る」ことを推奨しています。具体的には、macOS標準の「Font Book(フォントブック)」アプリ等を使って使わないフォントを整理・無効化することで、Officeが読み込むフォント数を抑制できます。

また、 優先フォント (Prioritized Fonts) 機能を利用する方法も公式に案内されています。これは、Mac版WordやPowerPointに限りますが、ターミナルから設定を行うことで特定のフォント名を優先リストに登録し、たとえシステム上の総フォント数が上限を超えていてもそのリスト内のフォントを必ずフォントメニューに表示させる機能です。優先フォントは最大50書体まで登録可能で、defaults write com.microsoft.office PrioritizedFonts -array "フォントのPostScript名1" "同2" ... というコマンドで指定します。これにより、ビジネス文書で必須のフォントなどどうしても表示させたいフォントがある場合に上限を超えていても優先的に読み込ませることができます。もっとも、この方法でも根本的に上限を解除できるわけではなく、優先枠以外のフォントは依然として読み込まれないため、根本解決策はフォント総数そのものを減らすことになります。なお、ExcelやOutlookについては優先フォント機能が提供されていないため(Excelでは内部仕様上、一度に扱えるフォント種別数に別途制限がありますが、それとは別の問題です)、必要に応じてWordやPowerPoint側でフォントを設定してからコピー&ペーストするなどの回避も考えられます。

技術的背景としては、macOS版Officeアプリがサンドボックス化されていることも関係しています。ある技術者の指摘によれば、サンドボックス化されたMacアプリには同時にアクセスできるファイルの数に上限があり、アプリ起動時に有効化されたフォントファイルも「開いているファイル」としてカウントされます。このため、数千ものフォントが一度にアクティブだとファイルハンドルの上限に達し、それ以上ファイルを開けなくなったり(新規の文書を開けない、保存できない等)、極端な遅延が発生する可能性があります。Office 2016 for Mac以降はMac App Storeの要件もあってアプリがサンドボックス実行されるようになったため、以前のバージョンに比べてフォント周りの制約が顕在化しやすくなりました。Microsoftがフォント読み込み数に自主的な上限を設けたのは、こうしたOSレベルの制限やパフォーマンス問題に対処する目的と考えられます。実際、「Officeアプリによっては1,000書体程度でフォント読み込みを打ち切り、それ以上は読み込まないようハードコードされているようだ」という業界関係者からの指摘もあります。

まとめ:変更の効果と今後の展望

以上のように、MicrosoftはmacOS版Officeの安定性改善の一環として 大量のフォントによるフリーズ/性能劣化問題に対応する措置を講じています。フォント読み込み数の上限設定はその中心的な対策であり、正式なリリースノートで大々的に発表されたものではないものの、Microsoft公式サポート情報やコミュニティでの説明によって事実上明らかになっています。対象アプリはWordやExcelを含むOffice全般で、閾値は約1000書体前後と見られます。この制限により、Mac上に膨大なフォントをインストールしていてもOfficeアプリがすべてを読み込もうとして固まる事態が軽減され、必要なフォントのみを効率的に扱えるようになりました

ユーザー側としては、もし同様の現象に悩まされている場合は フォント数を減らすか優先フォントを設定することで対処できます。Microsoftも「必要なフォント以外は無効化する」「最新バージョンのフォントを使用する」等のワークアラウンドを案内しています。また今後については、クラウドフォント(Microsoft 365のオンラインフォントサービス)との連携強化なども進んでおり、ローカルに大量のフォントを抱えなくても済む環境が整いつつあります。現時点では上限を超えるフォントを利用したい場合は制限に従うしかありませんが、Microsoftが将来アップデートでこの制限値を緩和したり(例えばパフォーマンス最適化により上限引き上げ等)、あるいは公式に詳細を公開する可能性もあります。しかし少なくとも2025年現在では、「Mac版Officeはフォント数が多すぎると1,000程度で打ち止めになる」という前提で運用するのがベストと考えられます。必要以上のフォントを常時有効にしないよう管理することが、Officeの快適な利用につながるでしょう。

参考資料: Microsoftサポート技術情報(macOS Officeのフォント問題)、Monotype Fontsヘルプ記事、Typedrawersフォーラムの議論など。特にMicrosoft公式ドキュメントでは、フォントを多数インストールしている場合に一部フォントが読み込めない問題とその回避策(優先フォント設定)が説明されています。また、Monotype社の解説には「1,000フォント超でPowerPointに不具合が出る」旨と対処法がまとめられています。以上の情報から、本回答ではmacOS版Officeのフォント読み込み制限の経緯と詳細をまとめました。

以下に、macOS版Office 365で大量フォント読み込みによる制限やエラーが発生する件に関する公式・準公式情報のURLをまとめます:

📘 Microsoft公式サポート・技術情報