Logically社に関する詳細調査


Logically社の主なプロジェクト、政府との連携内容、SNS上での活動、使用している技術の詳細について、発足時から最近の動向までを重点的に調査します。報告は日本語で行い、英語情報も含めて正確にお伝えします。

1. 主なプロジェクト(誤情報対策の取り組み)

図:Logically社の分析プラットフォーム「Logically Intelligence」の画面。SNSやブログなど複数ソースから収集した情報の関連ネットワークを可視化している。Logically社は、高度なAIプラットフォームと人間のファクトチェック専門チームを組み合わせ、誤情報の検出・分析・対策を行う事業を展開しています。主要なプロジェクトとして以下が挙げられます。

  • Logically Intelligence (LI) – 誤情報や影響工作の検出に特化した脅威インテリジェンス・プラットフォームです。2021年3月にサービス提供を開始し、インターネット上の数千のウェブサイトやSNSプラットフォームからデータを収集して解析します。AIアルゴリズムによって有害なコンテンツを検知し、関連する投稿や記事を「ナラティブ(物語)グループ」ごとに分類します。例えばCOVID-19や選挙陰謀論など特定のテーマに沿った虚偽情報のクラスタを抽出することで、拡散パターンを把握します。またLIは**状況認識(Situation Rooms)**機能を備え、リアルタイムに脅威を監視・可視化し、必要に応じて迅速な対応策(誤情報への警告表示や削除依頼など)を取ることができます。このプラットフォームは各国政府機関やNGOにも提供されており、公衆安全・国家安全保障・公衆衛生・選挙の健全性に関わるオンライン上の脅威検出に活用されています。
  • Logically Facts(ファクトチェック事業) – 独立したファクトチェック専門部門であり、日々インターネット上の噂や投稿の真偽を検証しています。Logically社は2020年7月に国際ファクトチェック機構(IFCN)から認証を受けており、このLogically Factsがその認証対象です(2021年9月および2023年1月にも認証更新)。Logically FactsはFacebook/Instagramを運営するMeta社の第三者ファクトチェック・プログラムに参加し、TikTokとも公式に提携してファクトチェック業務を行っています。専門のファクトチェック担当者と編集チームが在籍し、日々多数の検証記事や調査レポートを公開しています。公開された検証結果は自社サイト上で閲覧でき、特定の陰謀論の深掘り調査シリーズも提供されています。
  • OSINT調査およびレポート公開 – Logically社は社内にオープンソース情報(OSINT)調査チームを擁し、オンライン上で拡散する虚偽・扇動情報の発信源やネットワークを突き止める調査も行っています。例えば2021年8月には、QAnon陰謀論者「GhostEzra」の正体をフロリダ在住の男性であると特定し公表しました。また、2022年1月にはドイツの偽情報サイト「Disclose.tv」の背景にホロコースト否定論者やネオナチ系の勢力がいることを調査報告しています。他にも、5G通信とワクチンに関するデマを英紙ガーディアンと協力して検証した例や、2023年8月には福島第一原発の処理水放出を巡る中国発の偽情報キャンペーンを報告した例など、様々な国際的誤情報に関する深掘り調査結果を発表しています。
  • 一般ユーザー向けツール(過去の取組) – 創業当初、Logically社は一般消費者が日常で偽情報を見抜けるよう支援するツールも提供していました。例えばスマートフォン向けアプリやブラウザ拡張機能を通じて、閲覧中のニュース記事の信頼性評価やファクトチェック結果へのアクセスを提供するサービスです。実際に同社は2020年8月から2022年6月頃までブラウザ用拡張機能を公開し、ユーザーがオンライン記事の信頼度をチェックできるようにしていました。しかし現在このような消費者向けサービスは終了し、事業の主軸は上記のような政府・プラットフォーム向けのインテリジェンス提供とファクトチェック報道に移行しているとみられます。

2. 政府との連携内容(協力・契約・政策支援)

Logically社は各国政府と連携し、政策立案の支援や有害情報対策の業務委託を受けるなど密接な関係を築いています。その主な例は以下の通りです。

  • 英国政府との協力: 同社はイギリス政府から複数の大型契約を獲得しており、数百万ポンド規模の予算でオンライン上の陰謀論や虚偽情報対策を支援してきました。例えば2023年6月に報じられたところでは、Logically社は英国政府から120万ポンド超の支払いを受け、新型コロナウイルス関連の誤情報に関するオンライン言説を分析する業務を請け負っていました。これはFacebook社との連携の下で実施されたもので、ロックダウンに反対する主張やワクチン陰謀論などパンデミックにまつわるナラティブの監視・分析が含まれていました。また同社は英国の「オンライン安全技術産業協会 (Online Safety Tech Industry Association)」のメンバーでもあり、政府のオンライン安全政策にも民間の立場から貢献しています。実際、英国議会のオンライン安全法案に関する公聴会に書面意見を提出し、ソーシャルメディア企業に対する透明性報告強化やアルゴリズムによるフィルターバブル対策の必要性を訴えるなど、政策提言も行っています。
  • 米国政府との協力: ロジカリー社は米国の政府機関とも提携し、SNS上の誤情報拡散への対策ソリューションを提供しています。特に、ワクチンに関する誤情報や選挙不正の陰謀論が社会問題化する中で、同社のAIプラットフォームが米国政府機関の対策に活用されました。これはソーシャルメディア上でAIが疑わしい情報を検知し、コミュニケーションのパターンを分析した上で、当局者が迅速に対応メッセージを発信したりプラットフォーム側へ通報したりできるよう支援するものです。Lyric Jain CEOによれば、虚偽のナラティブが拡散された際に即座に反応し反論することが極めて重要であり、対策が遅れると虚偽情報が定着してしまうと指摘しています。同社のプラットフォームは、政府当局が専門家監修のメッセージを即時に発信したり、プラットフォーム運営企業に有害投稿の対応を促す**「ミティゲーション(被害軽減)機能」**も備えています。
  • インド政府・選挙管理当局等との協力: インドはLogically社にとって重要な活動地域であり、同社はインド政府機関や選挙関連団体とも連携してきました。同社は2019年にインドに進出して以降、インド選挙委員会や各州の選挙当局を支援する取り組みを行ってきたとみられます。実際、Logically社は各国の選挙管理当局と協力して選挙関連の誤情報対策を行った実績があると述べられており、インドでも2019年の総選挙以降、選挙期間中のデマ拡散抑制に貢献したと考えられます。また2023年4月にはインドの大手通信社プレス・トラスト・オブ・インディア(PTI)と提携し、インド各地で相次ぐ州議会選挙および2024年総選挙を見据えて選挙関連フェイクニュースの通報・検証体制を強化するプロジェクトを開始しました。この提携では、Logically社が持つAIプラットフォーム(LI)へのアクセスをPTIに提供し、同社のアルゴリズムで選挙デマを検知・分析してPTIファクトチェック部門が検証を行う枠組みを構築しています。プラットフォーム上では自然言語処理やメタデータ分析、ネットワーク解析技術を駆使してデマの発信源や拡散経路を特定でき、これに基づきPTIが読者向けに正確な情報発信を行うことで、選挙の公正さを守る狙いです。
  • その他の政府連携: 上記のほか、同社は世界各国の政府機関と協力し、ワクチン接種キャンペーンにおける偽情報対策や外国政府による情報工作の検知などを支援しています。例えばCOVID-19ワクチンの普及を妨げるデマの監視や、選挙プロセス保護のための監視業務などを各国当局と連携して実施しています。また一部の案件では、同社の解析により判明した重大な虚偽情報について**法執行機関にエスカレーション(通報)**し、捜査や法的措置につなげるケースもあります。このように各国政府はLogically社の技術と専門知見を活用して、自国の世論空間を悪用した情報攻撃への対抗策を講じているのです。

3. SNS上での具体的な活動(X・Facebook・YouTube・TikTok等)

Logically社は主要なソーシャルメディア・プラットフォーム上でも、各種の連携や対策活動を展開しています。それぞれのプラットフォームにおける取り組みは以下の通りです。

  • TikTok(ティックトック): 同社はTikTokと密接に協力しており、TikTokの公式ファクトチェックパートナーの一つとして動画コンテンツの真偽確認を担っています。2021年頃からイギリスにおけるTikTokの第三者ファクトチェッカーを務めており、疑わしい動画に警告ラベルを付与したり誤情報と判明したコンテンツの拡散を抑制する役割を果たしています。加えて、メディア・リテラシー向上キャンペーンもTikTokと共同で実施しています。たとえば2023年には北欧地域のTikTokユーザーを対象に、誤情報に関する注意喚起や見分け方の啓発を行うアプリ内キャンペーンを展開しました。このキャンペーンでは、Logically社がスウェーデン語・デンマーク語でのファクトチェック対応を開始したこともあり、北欧のユーザーに偽情報の危険性や対処法を訴える内容となっています。TikTok社は各国で信頼できる第三者機関と連携しており、Logically社は欧州における主要パートナーとして選定されています。
  • Facebook/Instagram(フェイスブック/インスタグラム): Logically社はMeta社(Facebook及び関連プラットフォーム)の第三者ファクトチェックプログラムに参加しています。これは、Facebook上で拡散する投稿の中立検証を行い、虚偽だと確認された場合にユーザーへの警告表示や拡散範囲の制限を行う取り組みです。IFCN認証を持つLogically社のファクトチェッカーチームが、日々FacebookやInstagram上で拡散する怪しい情報を精査し、その結果をプラットフォーム側に提供しています。その一例として、英国政府が依頼したCOVID-19デマ分析プロジェクトでは、Facebook上の反ワクチン・反ロックダウンの投稿群をLogically社が分析し、傾向データを提供しました。また同社はFacebookのコミュニティ基準やコンテンツモデレーション改善にも助言を行っており、2021年の英国議会提出文書では「主要プラットフォームはアルゴリズム推奨から陰謀論コンテンツを除外すべきだ」と提言しています。なおInstagramや2023年登場のThreadsといったMeta傘下サービスにおいても、Logically社を含むファクトチェッカーが投稿内容の検証を支えていると報じられています。
  • X(旧Twitter): Twitter改めXに対しては、公式のファクトチェック契約こそ結んでいないものの、Logically社はOSINT分析によってX上の誤情報トレンドを追跡調査しています。同社の分析プラットフォームはTwitterの公開データも収集対象としており、数多くのツイートを横断分析して虚偽情報のパターン検出や影響力の測定を行っています。CEOのJain氏は「有害なナラティブが放置されると人々の認識を固定してしまう」と指摘しており、真偽不明な情報が拡散している場合には直ちにファクトチェック結果や反証を提示することが重要だと強調しています。その哲学の下、Logicallyの調査チームはX上で流行する陰謀論やデマに関するレポートを公開し続けています。例えば、2022年のロシアによるウクライナ侵攻直後には、X上でウクライナをナチスと結びつける親露アカウントの動向を分析し、プロパガンダのパターンをBBCに指摘するなどの貢献をしました。また2023年には、イーロン・マスク氏の買収後にX上の誤情報拡散がどう変化したかを検証するリポートも発表しています(※参考:「How Elon Musk influenced the spread of misinformation on X」, 2023年10月掲載)。このようにLogically社はX社との公式連携はないものの、独自調査を通じて同プラットフォーム上の情報環境を分析・監視しています。
  • YouTube(ユーチューブ): YouTubeにおいても、Logically社は自社のAIソリューションを活用して有害コンテンツの検出・分析を行っています。特にYouTubeはアルゴリズムによる極端コンテンツの推薦問題が指摘されてきた経緯があり、Logically社も動画プラットフォーム上での陰謀論拡散経路をモニタリングしています。同社のプラットフォームは動画のメタデータ解析やコメント分析、必要に応じて画像認識技術も組み合わせて、YouTube上のデマ動画ネットワークを把握します。また、同社は英国議会への提言の中で「YouTubeは数年前に陰謀論動画の推奨抑制に乗り出したが、さらなる全社的取り組みが必要だ」と述べ、プラットフォームレベルでの改善も促しています。もっとも、YouTubeは他のSNSに比べ外部ファクトチェッカーとの連携が限定的であるため、Logically社は主に自社調査と政府依頼案件を通じてYouTube上の有害情報に対応している状況です。それでも包括的な脅威インテリジェンスの一環として、YouTubeデータも常時監視・分析されており、他媒体と横断したナラティブ分析や重大な有害トレンドの早期発見に役立てられています。

4. 技術の詳細(AI技術・検出アルゴリズム・プラットフォーム構成・ファクトチェック手法)

Logically社は「先端AI × 人間の専門知識」を掲げており、独自開発のAIシステムと大規模な分析チームを組み合わせて誤情報に対処しています。その技術的特徴をいくつか挙げます。

  • AIと人間のハイブリッド運用: 同社はファクトチェック工程にAIと人間のハイブリッド・アプローチを採用しています。まずAIがインターネット上の大量の投稿や記事をスキャンし、過去の検証データベースと照合して「真実らしさスコア」を算出します。この際、投稿元の信頼性や過去の類似デマとの一致度などを考慮し、機械的に真偽判定の仮説を立てます。次に最終判断は人間のファクトチェック担当者が行い、AIの提示したスコアや関連情報を参考にして総合的に「真 or 偽」を判定します。創業者のJain氏は**「テクノロジーだけでは限界があり、人間の専門知識によるニュアンス判断が不可欠だ」と述べており、あくまで人間を中心に据えつつAIで効率と網羅性を高める方針です。このコンセプトは社内で「HAMLET」と呼ばれる人機協調フレームワーク**として体系化されており、データ収集からモデル開発・運用監視に至るAIライフサイクル全体で、人間専門家の知見フィードバックと自動化を組み合わせて精度と信頼性を向上させています。
  • 高度な検出アルゴリズム群: Logically社のプラットフォームには、多彩なアルゴリズムモジュールが統合されています。その中核は自然言語処理(NLP)技術で、大量のテキストデータからトピック傾向や感情分析、真偽に関わるキーワード検出を行います。加えてメタデータ・モデリングにより、投稿日時や投稿者属性のパターンから不自然なアカウント(例: 短時間に大量投稿するボット)の発見に役立てています。さらに強みとしてソーシャルネットワーク分析(SNA)があり、偽情報拡散に関与するアカウント群の相互フォロー関係や共有コンテンツの共通性を解析することで、背後に存在する組織的なネットワークや「隠れた発信源」を炙り出します。Insikt社の買収により、このネットワーク分析能力は一層強化され、隠れたリンクや影響力者を洗い出す高度手法がプラットフォームに統合されました。画像・動画についてもコンピュータビジョン技術を組み込み、偽造画像の検出(例: Deepfakeの識別)や動画内音声のテキスト化などを行い、テキスト情報と合わせて包括的に判断できるようにしています。
  • プラットフォーム構成とワークフロー: Logically社のシステムは、データ収集から分析・通報までのエンドツーエンドのワークフローを備えています。まず**「シングルペイン・オブ・グラス」と称する統合ダッシュボード上で、主要なSNSやニュースサイト、フォーラム、さらにはクローズドなメッセージングやダークウェブ上の公開情報まで、一括してモニタリングできます。収集したマルチプラットフォームのデータは、自動分類システムによって「ミスインフォメーション(誤情報)」や「ディスインフォメーション(意図的偽情報)」「協調的な不正行為(CIB)」などにタグ付けされます。また、偽情報拡散に使われるスパムBotアカウントや組織的なソックパペット(複数アカウントによるなりすまし)の検出機能もあります。これらで脅威が特定されると、プラットフォーム利用者(政府担当者など)はダッシュボード上から直接、対策行動を起こすことが可能です。具体的には、誤情報へのファクトチェック結果の添付**、SNS運営への削除要請、重大なケースでは法執行機関への通報といったエスカレーションもワンクリックで行える仕組みです。この統合環境により、収集→分析→可視化→対処が一貫して迅速化され、情報戦への機動的な対応が実現されています。
  • ファクトチェック手法: Logically社のファクトチェックチームは、上記AIシステムで検出された怪しい情報や、提携先から提供される検証要請案件について、ジャーナリズムの手法で詳細に検証を行います。その際、情報源の裏取り(エビデンス確認)や、公的機関・専門家への取材、画像・動画のエラーレート解析など、多角的な手法を動員します。検証結果は社内基準に従いランク付けされ(例:「真」「偽」「ミスリード」「根拠不十分」など)、記事形式で公開されます。Logically Factsで公開された記事は、MetaやTikTokのプラットフォーム上で問題の投稿にラベル表示されるほか、一般ユーザーもLogicallyのサイトで自由に閲覧できます。なお、ファクトチェックには地域ごとの文脈理解が重要なため、同社はインドやヨーロッパなど多言語の専門家を配置し、各言語圏のデマをローカルスタッフが検証する体制を整えています。また検証作業そのものもHAMLETフレームワークで継続的にAI改善にフィードバックされており、AIと人間の双方が学習しあう循環を構築しています。

5. 発足の経緯と背景(創業者・設立目的・当初の活動)

Logically社は2017年、イギリス・ウェストヨークシャーで創業されました。創業者でCEOのLyric Jain(リリック・ジェイン)氏はケンブリッジ大学出身のエンジニアで、当時わずか20代前半でした。創業のきっかけは、ジェイン氏自身が体験した誤情報の弊害でした。によれば、彼の祖母は膵臓がん治療中に家族のWhatsAppグループで流れてきた代替療法のデマを信じてしまい、本来の治療を中断してしまったといいます。この悲しい出来事と、ちょうど同時期に英国で行われたBrexit国民投票(2016年)の際に誤情報が世論を混乱させる様子を目の当たりにしたことが、ジェイン氏に「テクノロジーで誤情報問題に立ち向かう」決意をさせました。

ジェイン氏は自身のアイデアを形にするため、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の支援プログラムに応募し、そこで得たグラント(補助金)によって事業のローンチ資金を確保しました。こうして2017年にLogically社が設立されると、当初はイギリス国内を拠点に少数精鋭で活動を開始しました。創業初期は、一般向けにニュースの信頼度評価アプリを提供するなど、主に消費者がフェイクニュースに惑わされないためのサービス開発に注力していたようです。また、2018年前後にはイギリスと並んでインド市場にも着目しました。インドはSNS上のフェイクニュース流通量が非常に多く、多言語・多民族社会ゆえに誤情報対策が難しい環境でした。この課題に取り組むため、Logically社は2019年初頭にインドに進出し約40名の現地スタッフを採用、主にファクトチェック業務をインド拠点で行うようになりました。これは同年春のインド総選挙に向けた対策でもあり、インドでの誤情報拡散パターン(例えばWhatsApp経由のデマ拡散など)の研究と検証体制の構築が進められました。

設立当初から順調に事業を拡大したLogically社は、2019年にシード資金として700万ドルを調達し、翌2020年には英国政府系ファンド(Northern Powerhouse基金)やXTX Venturesなどから追加で約277万ユーロの出資を受けました。社員数も増加し、2020年時点で約100名、2022年には米国・英国・インドを合わせて175名に達しています。当初の主要顧客は米英印の政府機関でしたが、その後民間企業(ブランド企業など)が競合社からの誹謗中傷キャンペーン対策の相談に同社を頼るケースも増えています。こうした需要の高まりに応え、2021年には「Logically Intelligence」プラットフォームを正式リリースし政府・企業向けサービスに本格参入、また2020年7月にはファクトチェック部門(Logically Facts)がIFCN認証取得と、対外的信用も確立しました。創業からの理念である「誰もが信頼できる情報へアクセスできるようにする」ことを軸に、当初は消費者向けだったサービスを徐々に政府・企業向けソリューションへとシフトしつつ、誤情報問題への包括的アプローチを確立していきました。

6. 最近の動き(2023〜2025年の新サービス・プロジェクト・提携など)

近年、Logically社は事業拡大とともに新たなサービス展開や提携、組織強化を図っています。2023年から2025年にかけての主なトピックをまとめます。

  • 大手通信社との提携 (2023年): 前述の通り、2023年4月にはインドのPTI通信社との提携プロジェクトを開始しました。これは大規模メディアとの協業による誤情報対策強化の好例であり、同社が培った技術を伝統的報道機関に提供する新たなビジネスモデルといえます。また同年には、欧州におけるTikTokとの協働キャンペーンも展開し、北欧地域でのファクトチェック対応と言語拡充を図りました。これらの動きは、各国の主要機関(報道・プラットフォーム)と組んで誤情報対策インフラを社会に組み込んでいく戦略と考えられます。
  • 英国政府との契約深化 (2023年): 2023年には英国政府との協力関係も引き続き強化されています。6月には同政府との契約内容が報道され(前述のCOVID-19デマ分析プロジェクト)たほか、国家安全保障選挙介入対策の分野でも助言・サービス提供を行いました。また英国のデジタル・文化・メディア・スポーツ省(当時)は、2023年6月にLogically社のAIモデル運用ケーススタディを公表し、同社のAI信頼性確保の取り組み(HAMLETフレームワーク等)を他企業の模範例として紹介しました。こうした政府公認の事例紹介は、Logically社が国家レベルで信頼されるパートナーとなっている証と言えます。
  • 資金調達と投資 (2022〜2023年): 直近では2022年7月に約2400万ドルのシリーズA資金調達を実施し、AmazonのAlexa Fundや欧州のVitruvian Partnersなどから出資を受けました。この調達により累計調達額は3700万ドル超に達し、研究開発の加速とグローバル展開に拍車がかかりました。調達時点で社員数は約175名に増加し、特に米国市場向けのサービス強化が図られています。資金力を背景に、2023年以降も技術開発や人材採用を積極化させており、その成果の一つが次項の企業買収です。
  • Insikt AIの買収 (2024年8月): 2024年8月, Logically社はスペイン・バルセロナのAI企業Insikt AIを買収しました。Insikt社は2016年創業のスタートアップで、政府や民間企業向けにソーシャルネットワーク分析有害コンテンツ拡散予測の技術を提供しており、EUの研究助成金を複数獲得するなど高い評価を得ていました。Logically社はこの買収により、自社の脅威インテリジェンス能力を強化し、顧客に対して競合優位性の高い情報分析サービスを提供できると述べています。具体的には、Insiktの持つドメイン特化型の機械学習モデルや高度なSNA手法をLogically Intelligenceプラットフォームに統合することで、新興の脅威検知や異常パターン発見の精度向上が期待されています。またInsikt社の共同創業者2名がLogically社の経営陣に加わり、一人はAI担当副社長(VP of AI)としてテロ対策AIの専門知見を提供し、もう一人はデータサイエンス責任者として最新のNLP・ディープラーニング研究を製品に応用していく予定です。この戦略的買収により、Logically社は従来の誤情報対策に加えテロ対策・過激主義対策といった領域にもサービスを拡大し、より包括的な「有害コンテンツ」対策企業へと進化しつつあります。
  • 組織再編と戦略見直し (2025年): 2025年2月、Logically社はグローバル規模で約40名の人員削減を実施し、約200名いた従業員の2割が退職する事態となりました。背景には、同社が近年の成長に伴いプロダクト主導のビジネスモデルへ移行を図ったことがあるとされています。新たな経営幹部を招き入れた上で組織の効率化を進める中、重複する部門のスリム化などを決断した形です。もっとも広報担当者は「ミッション(オンライン上の脅威と戦うこと)達成のため長期的成功に向けた戦略的判断」であると説明しており、事業そのものは堅調で引き続き誤情報対策に邁進する姿勢を示しています。実際、2025年現在も同社はケンブリッジ大学主催のディスインフォメーション・サミットで専門家と議論を行うなど業界をリードする存在であり(LinkedIn上の発信より)、組織再編を経てサービス提供を一層効率的かつ持続的なものにしようとしています。

以上、Logically社について、その主要プロジェクトから政府連携、SNS上での活動、技術的特徴、創業背景、そして最新動向までを総合的に調査しました。同社は創業からわずか数年で国際的な信頼を獲得し、政府・プラットフォームと協働しながら誤情報という現代的課題に挑む先駆的企業として台頭しています。 今後もAI技術の進化とともに、その動向が注目されるでしょう。

参考文献:

  • Logically社公式サイト・資料
  • 信頼できる報道機関の記事および政府発表資料
  • 上記に挙げた各種出典【3】【9】【12】等 v