2025年大阪・関西万博の黒字見通しと財務状況


1. 黒字見通しの内容と前提条件

大阪・関西万博の運営収支については、会期中に黒字化できる見通しが報じられました。万博協会副会長を務める吉村洋文大阪府知事は7月末の会合で、「8月中には損益分岐点を超え、黒字になる見込みだ」と述べています。これは入場券売上が運営費を賄うラインに達することを指し、運営費約1160億円のうち約8割を入場券収入でまかなう計画で、損益分岐点は約1800万枚(約969億円)とされています。実際、7月下旬時点で累計1700万枚以上のチケットが販売済みで、週40~50万枚のペースで伸びており、このまま推移すれば8月中旬にも黒字ライン(約1800万枚)に到達すると見込まれました。吉村知事は「多くの皆さんが万博に来て楽しんでいただいた結果として黒字の見込みになっていることは非常に大きい」と述べ、開幕前の懸念を払拭できると強調しています。一方で協会側は慎重で、台風など予期せぬ支出が発生する懸念や、最終収支は会期終了間際まで確定しない可能性にも言及しています。実際、万博協会は「災害等による想定外支出もあり得るため、最終的な黒字化見通しは明らかにしていない」と説明しており、9月下旬にならないと暫定収支も出せないとしています。要するに、今回報じられた「黒字見通し」とは万博協会の運営収支がプラスに転じるという意味であり、前提として十分な入場者数(約2200万人、チケット販売約1800万枚)を確保できることが条件となっています。

2. 建設費の推移と増額要因

万博の会場建設費は当初計画の1250億円から大幅に増加し、現在は約2350億円に達する見込みであると報じられました。これは当初見込みの約1.9倍にあたり、国民負担(税金投入)の増加につながっています。建設費は2020年に1850億円へと一度増額され、さらに2023年10月に追加500億円の増額(1850億→最大2350億円)が決定しています。増額の主な要因は以下の通りです:

  • 資材価格の高騰: 建設資材の価格上昇により約443億円のコスト増。コロナ禍以降の世界的な物価上昇が直撃しました。
  • 人件費(労務単価)の上昇: 建設労務費の高騰により約84億円のコスト増。人手不足も背景にあります。
  • 予備費の計上: 想定外の物価上昇に備えるため約130億円の予備費を新たに確保。不確実性への対応策です。
  • コスト圧縮策: 一方で調達方法の見直しやデザイン簡素化などで157億円を圧縮し、増額幅を抑えました。

これらを総合するとネットで約500億円の増額となり、建設費は最終的に約2350億円に膨らむ見通しです。増額分は国・大阪府市・経済界の3者で3分の1ずつ負担する建前ですが、その2/3(約333億円)は公費(国と大阪の税金)で賄われるため、結果的に国民負担の増大となりました。政府は増額分を補正予算に計上して対応する方針を表明しましたが、国会ではさらなる増額の可能性や妥当性について厳しく問われています。

3. 万博の財務全体像(運営費・建設費・パビリオン費用・税金負担)

万博に関する収支構造を全体で見ると、運営費・建設費・パビリオン整備費・関連インフラ費など複数の要素があります。それぞれの規模や資金源は以下の通りです。

  • 運営費(万博協会の事業費): 約1160億円。入場券売上約969億円+協賛金・ライセンス料等約191億円で賄う想定。
  • 会場建設費: 約2350億円。国・大阪府市・経済界の三者で均等に負担(各々最大783億円)、うち2/3は公的資金。
  • パビリオン整備費(出展者負担分): 出展者による投資は総額約1187億円。途上国支援費として公費240億円も投入。
  • 関連インフラ整備費等: 鉄道・道路などで約800億円、公費。加えて警備費・PR費約358億円。

総計では万博関連の公費投入額は数千億円規模に及びます。

4. 収支の評価

結論として、運営収支は黒字見通し(入場券販売が計画通り進めば達成可能)ですが、全体では巨額の税金負担を伴う赤字構造です。すなわち「黒字」とは万博協会の運営費に限った会計処理であり、建設費・インフラ費を含めた国民全体の視点では1000億円以上の赤字と評価すべきです。経済波及効果(約2.9兆円と試算)を重視するか、財政負担を問題視するかによって評価が分かれるのが実情です。